遅野井:まずはじめに、ゲストトークから感じたことをお聞かせください。
芝池:「はたらく×bee」のイベントを通じてやってきたことは、beeに来てくれたみなさんが抱える「大事にしたいこと」や「もやもや」を紡いでいくことでした。お二人のお話をお聞きして、この活動はやはり大事なことだと後押しをしてもらえました。
猪熊:OMOYAでも、岡村社長のお話のように「子供と一緒に働く」取り組みをしていました。赤ちゃんがいるメンバーが「子どもとの時間を一番大切にしたいけれど、家族以外の誰かの役にも立ちたい。それってわがままなのかな?」と悩んでいました。そこで「会社に赤ちゃんを連れてきて、みんなで抱っこしながら一緒に働いたらいいじゃない」と伝え、実際に社内のメンバーが代わる代わる抱っこをしながら赤ちゃんと一緒にオフィスで働きました。子どもとの時間を大切にするためには「働けない」という選択肢しかないと思い込んでいた彼女は、その経験を経て自信をつけて、今では女性起業家として活躍しています。 そこからもわかるように、女性が自信つけていくことは本当に大切で、OJT(On-The-Job Training)の文脈は大きいと思います。働きながら子育てをする女性が、社会と断絶したり、自分だけ遅れていくように感じてしまうことなく、働いていく中で自分も誰かの役に立てるのだと喜びを実感できることがとても大切だと思います。
岡村:お二人のお話をお聞きして、うちがやってきたことが間違いじゃないとお墨付きをもらえたようで、勇気が湧きます。私は最近、ウエダ本社と女性活躍のための子会社の代表を兼務しています。ウエダ本社は”人”にスポットを当てて十数年やってきましたから、多少普通の企業より”人”に対して理解があると思っていました。しかし、子会社を通してたくさんのお母さん方と話していく中で、みなさん口をそろえて「自信がない」とおっしゃることを知り、とても驚きました。元々バリバリ働いていた方もそうですし、専業主婦の方は特に「自分にはなにもない」と思っているのです。そのようなことは一切なく、中小企業には主婦の方が普段やっているスキルを生かせる場面がたくさんあることを伝えると、涙をこぼされるんですよね。そしてみなさんをオフィスに呼ぶと、オフィスに入られるだけで大変喜ばれます。オフィスは心理的障壁がとても高く、オフィスは「踏み入れられない場所」だと思っているのです。それだけ彼女たちは社会から隔絶されてると感じているので、その心理的障壁を取ってあげないといけません。そのために子会社では「ママインターン」という取り組みをしていて、お母さんにオフィスに来てもらい、社会と接点を持ってもらっています。
遅野井:WORK MILLのウェブマガジンで、「ママスクエア」について取材をしましたが、そこでもお母さんと面接をするだけで泣かれる・書類選考すら通らないと悩んでるお母さんが多いとおっしゃっていました。
岡村:お母さん方は「社会の輪にもう一度入れた!」と大変喜ばれるのですが、それはこちらにとってもありがたいことですよ、とお伝えすると号泣されます。
遅野井:どうしてそのようなことになってしまったのでしょうか。結婚や出産は、女性が日本社会で働く上でリスクをはらんでいると感じてしまっているということだと思うのですが。
猪熊:私は「働くことと対価の関係」の問題だと思っています。1日を仕事中心に過ごせる人を基準として会社の制度ができ上っているため、働ける時間が短かったり、子ども急な発熱などで早退することのある子育て中の社員は働きづらくなります。また、今の日本は多くの場合、労働時間に対して対価がもらえる仕組みなので、極端な話、実は仕事をしていなくても、オフィスにいさえすれば給料がもらえるのです。しかし時短勤務になると、労働時間が短いためその分給料は少なくなってしまいます。そういった子育て中の方たちにも活躍してほしいと本当に思うのなら、時間ではなく成果に対して給料をもらえるようにしないといけないと思います。労働法の改定が行われないといけないなど、さまざまな議論は必要だと思いますが。
遅野井:時間に制約がない人しか働けないという問題には、シニアや障がい者の方も同じように苦しんでいらっしゃいますよね。結婚・出産といった女性のライフイベントが話題に上がりがちですが、その前の若い世代にはどのようなメッセージを届けたいですか。
猪熊:例えば想定外の妊娠・出産で働けない時期が出てくるなど、女性のライフイベントには不確定要素が多いと思いです。そのような中で、本人すらわかっていない働き方の「理想」や「働きがい」を上司が理解することはとても難しいと思います。
また、これは私が最近感じている主観ですが、20代の結婚・出産が早まっている気がしています。それは40代ぐらいの女性たちの妊娠や不妊に対する悩みが伝わって、「とにかく結婚・出産は早い方がいいよ!」という助言が入っているのではないでしょうか。世代によってその時重要だと思うものの価値観が違ったりもするので、余計に惑わされてしまいます。女性の生き方が多様化していく中で、女性自身も受け身ではなく、自分にとっての「活躍」とはどういう状態なのかを考え、自ら理想に向け働きかけ、「新しい環境を作っていくんだ!」という強い気持ちを持つことが大切です。
遅野井:関西は東京と比べて実家住まいの女性が多いと聞きましたが、実家住まいの女性の特徴や抱える問題はどのようなものでしょうか。
芝池:私の感覚値なのですが、地元を離れずに実家で暮らしながら地元で働いている女性と、大学や就職のために実家から離れた女性でも生きる道(=悩み)が違います。地元に残り続けた人は近くにいる人たちに影響を受けやすく、自分の意思が不明瞭になりがちです。一方、地元を離れるとそのような影響を受けにくいため、自分の意志が明確になって、自分の好きな道をに選ぶことが、実家住まいの女性に比べてしやすいのではないでしょうか。
猪熊:実家住まいの女性は、キャリア選択の中に母親の意見が入りやすいとも思います。離れて生活している女性に比べて母親の「こうしたらいいよ」というアドバイスが入ってきやすいのです。実際、関西の大学で講義をするときにキャリアについて尋ねると、「専業主婦になりたい」と答える学生が東京よりも多く、理由を尋ねると、「母親が専業主婦」だからという回答がきます。そのような時は専業主婦と共働きについてのグラフ見せて、「昔と比べて専業主婦になれる確率はかなり下がっているので、働く選択肢も持つようにしておいた方がいい」、とアドバイスしています。世の中の変化を母親は知らない場合があるのと、娘に人生を後悔してほしくないと思っているために「自分と同じように…」と願われるのは当然のことだとは思いますが。
芝池:「はたらく×bee」のイベントで生まれた、「社会人のマインドセット塾」のイベントポスターを見ていただきたいのですが、ここには大阪大学の院生の思いがとてもこめられています。彼女は社会人になることに対してたくさんの期待感を抱いていますが、自分より早く社会人になった友達が「バリバリ働く!」と入社当初は意気込んでいたのに、数年経つと「もうそんなに働かなくてもいいかな…」とこぼしているのを見て不安を感じたそうです。一つの組織の中でのキャリアを考えると、女性はライフイベントがより絡むため、いまの業務が続けられるかなどの課題に直面することが多く、まだ働いていない段階でも周りが不安を抱えていると、社会人になることにいくら期待があっても不安になってきます。将来有望のように思える大阪大学の院生の彼女でも不安を抱えているのですから、ほとんどの大学の学生たちは不安になっているのではないかと思いました。
遅野井:そのお話を聞いて、高校生で起業した椎木里佳さんのお話を思い出しました。「周りの友達の話を聞いていると、お母さんが身近なロールモデルとして影響が強すぎる」と、彼女は嘆いていました。
猪熊:家族以外の、他との繋がりがどれだけあるかは若い女性にとって大切なことだと思います。特に最近は母子関係が友達のようになっている傾向もあるため、より影響を受けやすいのだと思います。また、東京は自分がアクションしようと思えば会社以外にも繋がれる場所や機会がたくさんあり、自分と同じ課題感を持っている人と繋がりやすいですが、大阪は東京に比べて女性たちが母親以外と繋がれる機会が少ないと思います。社会人になってからは会社と家を往復する生活で、大学以来友達が増えていないという社会人女性の声もよく聞きます。そこで、会社と家の外にあるこのbeeのような場があれば、今よりもアクティブでおもしろい多様な生き方があることや、赤ちゃんと一緒に働ける会社があることを知るなど、新しい世界に触れることで、関西の女性の生き方も変わってくるかもしれません。
あとはSNSの流行により、本当のリアルではなくきれいに加工された一部の情報だけが目に入り、高い理想像が出来上がってしまっているところもあると思います。リアルな自分と、飾り立てられた理想的な他者とのギャップに余計自信をなくしている女性も多いと思います。
芝池:虚構を目にすることが増えるのは、働き方にも影響を及ぼしていると思います。虚構の表面的なところで物事の良し悪しを判断し、それが無理解を広げていきます。例えばbeeセッションでも、世代間で価値観やジレンマが違うから、「あなたたちの世代はいいよね」というように、お互いが苦労してきたことが下手をすると対立を引き起こしてしまうのです。新しい働き方をつくって実践していくことが目的なのに、表面的にジャッジすることで対立に繋がってしまいます。
猪熊:そうですね。建設的な対話ができるコミュニティは単発だと生まれません。また、コミュニティにはファシリテーターの存在がとても大切になります。葛藤やジレンマを吐き出すことは自己開示にとても大切ですが、悪い方に向かうと愚痴大会や対立に繋がってしまいます。そのような時にファシリテーターが建設的な他社理解を促す役割を担うことが重要です。「こういうことを大事にしているから、こういった働き方や生き方なんですね」と、キラキラして見える人でも本当は弱さや悩みを抱えているということを引き出していく。
それをできるのがファシリテーターであり、その存在はコミュニティにとってなくてはなりません。
遅野井:そのようなことを会社組織でやってるのが岡村社長ですね。
岡村:そうですね。会社の風土づくりで大事にしていることは、権利取得者から周りの人への声がけです。お子さんをお持ちのお母さん(権利取得者)は早く帰るのが当たり前、という世の中の流れですが、会社には結婚していない方や、不妊に悩まれている方もいるわけです。「権利だから制度だから早く帰るのは当たり前」というだけでは周りに負の感情が生まれてしまいます。また、男女問わず子供の参観日などの学校行事で休む際、もちろん休むことはOKですが、きちんと周りに話してもらっています。これを話すと「男性上司は頭が固い」と感じられるかもしれませんが、時代が違うのです。今では出産に立ち会うために夫が会社を休むことは当たり前ですが、昔はその選択肢すらなかったのです。もちろん、出産の立ち会いは人生にとって優先すべきことなので行くべきだと私も伝えますが、それを選択することもできなかった人たちが一緒に働いていることを忘れてはいけません。選択肢のなかった人たちが、「今の時代はいいよな」という嫉妬しても仕方ないと、今の若い人たちも分からないといけません。 ですので、権利取得者には周りに対して「このように仕事の調整をつけたので休みます!」と伝えてもらうようにしています。
遅野井:ひとつの事象から生まれるマイナスのところもちゃんと共有していくことは組織全体に求められる資質ですね。
猪熊:人は、自分に近い他者は理解できても大きく異なる他者は理解しづらいものです。性差、世代、国籍といった遠い文脈の大きく異なる人にこそ「ちゃんと理解しよう」という心構えが必要です。このご時世、休むことを当たり前だと思っている方が多いですが、当たり前の権利だと思って休むことだけに意識がいっていると信頼残高は下がっていきます。これは思いやりの話で、「明日休む代わりにここまでやります」と一言つけ加えるだけで周りの心象が変わるように、他者が”どう思うのか”に思いを馳せる。そして、権利を獲得するからには自分ができることは最大限やる、という努力が必要です。
芝池:まさに、成果にコミットした働き方ですね。自分がアサインされた仕事をkきちんとやり、それを周りに見せて共に働く。
遅野井:「遠慮」ではなく、「配慮」が大事ですね。おもんばかってなにもしない「遠慮」はいりません。「配慮」は相手の気持ちになることです。遠いところからおもんばかっているのか、近くで気を配っているのか……周りへの「配慮」が、巡り巡って自分への「配慮」へと繋がっていくのだと思います。
本日はありがとうございました!
「女性活躍」という言葉だけが独り歩きし、どういう未来のための女性活躍か、誰のための女性活躍かという議論がすっぽり抜けてしまっているような中で、今回はかなり具体的に「女性活躍活動の中で見えてきたこと」や、「女性自身が意識しないといけないこと」を知ることができました。また、女性活躍は女性自身のためであり、そして周りのためである。と実感できるような対話をお聞きすることができて、「やらなければいけないこと」から、「やっていきたいこと」に女性活躍への思いが変わっていくのを感じました。本当に勇気の湧く、素晴らしいセッションでした!
beeではこれからも、「女性」にフォーカスすることが、働き方全体の未来を拓くと信じ、活動を続けてまいります!
また、WORK MILL EXHIBITION 01ではこれまでbeeと共創活動を展開したパートナーのみなさまとの成果も多数展示させていただきました。
この日も神戸市、近畿大学、大阪大学のみなさんにお越しいただきました!
共に新しい価値をつくる、「おもろい」取り組みを今後も展開していきますので、なにかbeeとおもしろいことがしたい!と感じられたみなさん、ぜひご相談くださいね!
REPORT
2021年2月22日に開催した、「晋也と一也のIX道場 vol.02」のイベントレポートをmatsu-lab(関西大学社会学部・松下ゼミ)のメンバーが作成してくれました。
独自の視点でトークショーの内容がより深掘りされた内容になっており、イベント参加不参加に関わらずおもしろい内容となっております。ぜひお読みください!
詳細を読む
REPORT
2021年1月27日に開催した、「晋也と一也のIX道場 vol.01」のイベントレポートをmatsu-lab(関西大学社会学部・松下ゼミ)のメンバーが作成してくれました。
2人のメンバーによる、それぞれ違った視点でのレポートをお読み頂けます。トークショーの内容がより深掘りされた内容になっており、イベント参加不参加に関わらずおもしろい内容となっております。ぜひお読みください!
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REPORT
2020年10月19日~2020年12月21日 全9回開催した、「秋だ!学びだ!多様な生き方・働き方を学ぼう 大阪大学『現代キャリアデザイン論II』」のイベントレポートをmatsu-lab(関西大学社会学部・松下ゼミ)のメンバーが作成してくれました。それぞれ違った視点からのレポートは、イベント参加不参加に関わらずおもしろい内容となっております。ぜひお読みください!
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「これからのはたらく」を知りたい方、考えたい方、つくりたい方、相談したい方、見学したい方、仲間が欲しい方・・・
もし少しでも「ピン」ときたら、お気軽にbeeにおたずねください。