案外、自分で自分の姿というのはよく見えないものです。自分の長所や短所は、他者と比べてはじめて見えてくるもの。同じように、日本の中では見えてこない、日本の長所、短所とはいったいなんでしょうか?
さまざまな観点から日本の現在地をひも解くセッションとなりました。
まずはじめに、オカムラ山田より、働く環境から見る日本と海外の違いについてお話いたしました。
「オフィス」が誕生したのは20世紀初頭。生産現場の流れ作業の手法から生み出されたのがはじまりでした。
それから100年以上が経った今でもオフィスは変化を続け、北米・北欧・日本ではそれぞれ違った特色をあらわにしています。
北米では昨今、オフィスゾーンにおける投資バランスの変化が見られます。自席や会議室などの執務スペースそのものよりも、コミュニケーションやカフェスペースなど共用スペースの充実が図られるようになりました。実際に、自席よりもカフェやマイクロキッチンといった共用スペースに移動して働くワーカーが多く見られます。社員同士のコミュニケーションを促すためのさまざまな工夫が施され、仲間意識を高めて、コミュニティをつくる文化醸成を進めています。直接的な作業とは関係のない空間や行為からのつながり、他愛のない会話や活動からアイディアが生まれるきっかけがあると、遊び心を大切にするのが北米の働く環境のひとつの特色ではないでしょうか。
一方で、北欧の例としてデンマークのとある設計事務所では「オフィスに遊びは必要ない」という逆の考え方でつくられたミニマムオフィスがあります。執務スペースでは、各人が作業に「ひたすら集中」するための背面対抗式レイアウトを導入し、会話が必要な時だけふり返るようなつくりになっています。コミュニケーションは昼食時に集中的に行うなど、仕事の時間はしっかり仕事に集中します。そしてクリエィティビティは、各自の余暇やライフの時間から得て、オフィスに持ち帰り仕事に反映させるといった考え方です。特にデンマークでは、1日を仕事・休息・自分の時間にしっかり分類し、それぞれの時間でやるべきことをして他の時間には持ち込まない、つまりワーク・ライフ・バランスがしっかりした働き方が特徴だからこその環境ではないでしょうか。
最後に日本ですが、実は20世紀初頭からあまり変わっていません。むしろ1902年のオフィスの風景の方が、西洋式ビルディングによる高い天井・洒落た照明・壁掛け時計など、今より豊かな環境だったかもしれません。
日本は現在でも島型対向式レイアウトが主流で机とイスが並んでいる画一的な環境で長時間作業しており、海外のように時代に合わせて変化を遂げているとは言えません。しかし少しづつ変わり始めています。カフェ調の打合せスペースができたり、健康経営に配慮した上下昇降型のデスクが導入されたりと画一的な形式から変化が生まれています。
また、最近の食堂は、昔の社員食堂とは様子が変わり、カフェのようなカジュアルな雰囲気が多くなりました。オープンしている時間も、お昼の食堂機能本来の時間以外でも利用でき、働く場所としても機能しています。街中のカフェを仕事場にしている人の、「こういった場所なら集中して仕事ができる」といったニーズをオフィス内に取り込んでいます。
特に昨今は働き方改革の後押しもあって、机とイスが等間隔に並んだ画一的なオフィスから、それぞれの企業の多様な「個性(働き方)」を反映したオフィスに変わってきています。
三地点の働く環境から繰り広げられる働き方をひと言で表すなら北米は「PLAY WORK」、北欧は「SMART WORK」。変化が始まっているとはいえ、日本はまだまだ「HARD WORK」という表現ではないでしょうか。これから「HARD」に代わる日本の働き方を、みなさんで模索しながら確立していきましょう。
続いて、印南さんにお話いただきました。
印南さんは大学時代の留学経験で培った豊富な語学力をもとに、ナレッジキャピタルで「人と人」・「人とモノ」・「人と情報」をつなぐプロフェッショナル「コミュニケーター」として活躍されたのち、現在はさまざまなイベントの企画運営や、13にのぼる海外拠点との連携を全面的に担当されています。
他にも日欧合同スマートシティ実証実験プロジェクト「FESTIVAL」への参画、アルスエレクトロニカフェスティバルへの出展など、世界を舞台にプレゼンテーションや通訳をする機会を多く持たれ、大阪大学でも医療通訳の授業を持たれています。
そのようにさまざまな通訳の仕事を経るうちに、その難しさを感じられています。言葉を訳すためには、その前後にある文脈を理解しなければなりません。文脈を理解しないまま訳してしまうと、単語の意味だけにとらわれて誤訳を引き起こしてしまうことがあるからです。特に、間違いの許されない医療の現場では非常に大きな問題になります。
通訳をするにあたって必要なこととは、まず母語を理解する力であり、その上で外国語運用の基礎能力、さらに、「メディカル(医療的)」・「リーガル(司法的)」・「テクノロジカル(技術的)」といった専門用語の習得があります。しかし専門用語を理解すること以上に大切なのが効果的にコミュニケーションを実現するために言語を使いこなす「文脈的言語運用能力」なのです。
出典:Martyn Alexander Ford, Peter Christopher Legon (2003) The how to be British Collection, Lee Gone Publications
また、例えば「英語」とひとことで言っても、アメリカで使われる英語とイギリスで使われる英語は違います。
“溺れている人が使う英語は、一般的には”HELP!”かもしれないが、イギリスでは丁寧な英語が使えないと通じないよ”
丁寧な言葉を好むイギリス人の性質を表現した英語文化の皮肉っぽいユーモアを教えていただきました。
このように、母語としての英語はイギリスの文化に根ざして使われるように、それぞれの母国の文化も言語の使われ方やニュアンスに大きな影響をおよぼします。通訳には、そういった文化的背景の理解も重要になります。
このContextual Sensitivity(文脈の感受性)を高めるためには、
・傾聴能力(聴く力)
・文脈理解能力(読み解く力・感受性豊かな吸収力)
・演繹的表現力(表現する力)
といった力を、普段のコミュニケーションから養うことが大切です。
モデレーターの岡本も加わり、参加者同士の共有から生まれたゲストへの質問からスタート!
山田:日本の働き方は、「過労死」という言葉がそのまま海外にも通じるなどネガティブな側面が知られがちではあると思います。ハードワーク、長時間労働は疑問視されていて、高い技術がありイノべーティブなものを生み出しながらも生産性がすごく低い。働いた量とそこから生み出された価値サービスがうまく結びついていないのではないか、と思われています。一方で日本の社会全体で考えますと日本に来たことや日本で働いたことのある人は、「日本はとにかくすごく安全だ!」と日本の街や人への「安全性」について褒めます。実はこの安全性の高さが、コミュニケーションといった行為において良さも悪さも出してると思います。
あくまで仮説ですが、例えば日本では電車内や町中で特に必然性が無ければ他人に話しかけないですが、それは状況として人も場所も安全だから誰も話しかけないのです。海外だと、ホテルのエレベーターで乗り合わせた他人同士が乗っているほんの1分間でもフレンドリーに話していることがよくあります。これは自分の心理的かつ身体的安全を確保するためで、「他人(よくわからない人)のそばにがいる」というのは海外では一種の危険な状態であり、安全性を確認するため、また相手に対しても自分は危険な人物じゃないとアピールするためにあえて話しかける行為でもあります。それを彼らは本能や習慣レベルで町やオフィスでも行っているのでないでしょうか。そのような影響もあり、あんなにもコミュニケーションが豊かなのです。逆に日本は知らない人に話しかけられた方が怪しく思いますよね。そもそも安全性が高いので、それをする必要がないからです。
海外ではコミュニケーションを取らざるを得ない状態から偶発的にいろいろなアイデアが生まれますが、日本はそういった状況も相まってコミュニケーションやコラボレーションが苦手な人種になってしまっている。海外の人から見たら「とにかく安全だ!」と褒められる素晴らしい環境が、不幸にもコミュニケーションやコラボレーションの阻害要因のひとつになっていると思います。
印南:海外では本当に誰彼かまわず話かけられます。ブラジルでは一回会ったことのある人はもう「アミーゴ(友達)」です。日本では考えられないですよね(笑)。海外の人は自分と他人を結びつけて主体的に関わろうとし、わからないことはなんでもクリアにしようとする。日本人は自分に関係があるか・ないかのギリギリのところだとスルーしますが、向こうの人はつっこんできます。山田さんがお話された安全性もその通りですが、契約社会なのも影響していると思います。自分が認識していないせいで不利な契約をしてしまうと、それは自分の責任になる。そういう危機感を持っているので、主体的に関わってコミュニケーションを取ろうとします。
山田:そうですね。個人が契約で紐づいているので、主張しないと契約での安全性が浸食されてしまいます。そのため日本より発言が多く、コミュニケーションが取れて、ものごとがクリアになりやすい。会議でも議論がどんどん前に進んでいき、意思決定も進みやすいです。それに対して日本は主張や発言を控え、周りの空気を読みながらみんなで決める、といった習性があります。
岡本:日本の安全性の高さが、日本人の受け身な特色に影響を与えているのですね。
山田:日本は経済的にも契約の安全性が確保されていますからね。一度ひとつの会社に入れば安泰、というような。
印南:民族の混ざり合いが少ないのもあって、日本の働く環境はコンテクストが高いですよね。言葉を発しなくても無意識に共有できているというか。いい意味でもあり、消極的な性質にも繋がっていると思います。「阿吽の呼吸」や「忖度」という言葉も日本がハイコンテクストだからこそ生まれた言葉だと思います。最近はネガティブワードに捉えられがちですが、見方を変えるとコンテクストの高さは日本の良さでもあります。緻密な文脈の共有によって、高い技術や良質なサービスが生み出されています。
岡本:日本は世界で一番ハイコンテクスト(文脈を読む力がある)と言われています。多くを語らなくても空気でなんとなく理解してしまう、言葉よりも雰囲気重視といった空気を読む行為は悪いように思われがちですが、少ないワードで同じものを共有できるというのは日本人の持つすごい力でもあると思います。それをプラスに働かせて活かしていけるといいですね。
山田:先ほども少し話しましたがデンマークは完全にワーク・ライフ・バランスが整っています。日本はバランスが取れておらず、ワークとライフを分けるのは難しいと考えられています。
24時間を「働く時間」・「自分の時間」・「休む時間」の3つにきっちりと分ける規律を持っていて、その考えに基づいて社会が動いています。これがなぜ成り立つのかというと、一つの背景としてベーシックインカムを含めた社会保障制度がきちんと整備されていることが大きいです。高い税金を国民が納めることで教育・医療への負担が無く、無職や失業時の保障もあり、日本のように「ライスワーク=ご飯を食べるために働く」にならないからです。また、職業に対する給料があらかじめ決まっていて、経験を積んでも給料は上がりませんが、次にこういう仕事をするためのスキルを身につけたいという学び直し、いわゆるリカレント教育を無償で受けることができます。そこでまた新たなスキルを培って、元々の仕事で獲得している「Aのスキル」+「新たなBのスキル」と組み合わせることで、さらに多くの収入を得て、どんどんステップアップすることができます。より成長したければそれに応える環境はあるけれど、満足すればそこまで、という仕組みです。
このようにデンマークは自分たちの国を持続させるために、自国民に非常に高い税率をかけ、より働き、勉強し、また働き、税金を納めてもらう仕組みをつくり上げてきたともいえます。
こういった仕組みを日本が取り入れるのがなぜ難しいかというと、例えばデンマークは人口が570万人程度(福岡県の人口より少し多いくらい)で、それに比べて日本は1億人いるため、同じ仕組みを日本にそのまま持ち込むのは規模的にも無理が生じます。海外の仕組みを取り入れたくても、環境や背景が違うわけですからそのまま持ち込むのは当然難しい。それをどう翻訳し、自分たちの背景を元に取り入れるかが重要です。国・企業・個人ベースでそれぞれが翻訳しながら取り入れていかないと、日本のHARD WORKは変わらないと思います。
印南:北欧は極端な例ではありますが参考になるモデルですよね。僕はヨーロッパと仕事する機会が多いのですが、マネジメントも制度化されているし、ちゃんと機能している。例えば大きなイベントの前日などに日本では徹夜で仕事…なんて見る光景ですが、ヨーロッパではボスの指示で前日が急に休みになったりします。仕事をしすぎるとこれ以上働くなと管理体制を上から怒られると言うわけです。机上の空論でなく、きちんと制度が機能しているんですね。
また、興味があったりやりたいキャリアステップに合わせて職業訓練が受けられる仕組みも充実しています。最近でこそ日本も「スタートアップ」や「アントレプレナー」という言葉が流行ってきていますが、一流の大学を出て「スタートアップをやりたい!」と言ったとき、日本の親はどのような反応をするでしょうか。いろんな職業を転々としてる人に対して、「この人はいろんなスキルがある」と思うのか、「どこに行っても長続きしない人」と思うのか。周りがどう捉えるかでその人のモチベーションも大きく変わりますよね。ヨーロッパでは自分のスキルアップのために応援し、見守ってもらえる仕組みが整っています。そのお蔭で自分がやりたいことを主体的に考えられる。良い循環があり、そういう教育もまた浸透しています。
岡本:ここで私からお聞きしたいのですが、日本は戦後、高度経済成長期でここまで発展してきたというのはまぎれもない事実であり、成功してきたからこそ、そのやり方が今日まで根付いてしまっていると思います。昔は仕事とバランスを取るための企業文化や地域の祭文化があったと思いますが、それが今では仕事を優先し効率を重視するあまりそぎ落とされてしまっている。高度経済成長期の成功体験によって、ふり返らずにここまで来てしまった感じがありますが、今まさに変わらなければいけない節目を迎え、過去をふり返ってなにを残せばいいのか、またこれからどう変わっていけばいいと思いますか?
印南:日本人は典型的にプロダクトを洗練させていくのが得意だと言われていて、緻密さやものごとを計画的に進めるといった特技を活かし戦後成長してきました。それまではわかりやすくゴールが決まっていた中で仕事をすればよかったのですが、発展を遂げた後のこの時代には、新しい問い、ゴールを設定することができる人材や、達成のためにチームをつくって一緒に課題解決をしていける人材が必要だと思います。
また、多様な人材が集まって、自分たちの実情をいろんな人たちと共有しながら、何が問題なのか考える場も必要になります。ここ(bee)もそういう場所だと思いますが、そのような場が広がって、自分の持ってるリソースやコンテクストをいろんな人と共有し、課題解決に向けて問いを設定する機会が増えればいいなと思います。また、その場には課題解決の専門家だけではなく、自分の言葉や表現で問いを生み出すアーティストが混ざり、専門家とアーティストが意見交換をしたときに何を感じるか、という化学反応を起こすことが重要です。
過去発展してきたことを否定しすぎる必要はなく、当時はそういう発展の仕方が必要な場面だったのだと切り替えて、積極的に場をつくったりビジネスにおいてもリカレント教育を取り入れるなどのトライが必要です。
山田:経済が爆発的に成長していたときにHARD WORKで結果を出したのは確かに成功体験ですが、日本はちょっとビジネスに寄りすぎたと思います。ビジネス以外のモノに触れる時間を排除し、もともと感受性が豊かな日本人を殺してしまったのが残念だったと思います。仕事以外の文化やアートなど、日本が持っていた古来の感性や創造性に触れ合う機会を大人から子供までなくしてしまいました。土日もお父さんが働くから、家族で遊びに行けない。学校も受験勉強まっしぐら。こう言うと怒られるかもしれませんが日本はいかに経済を回し潤すかに寄りすぎたと思います。
ヨーロッパでは日曜日に開いているのはお店よりも美術館、博物館、スポーツ施設が多いです。そうすることで家族とそこに行くように仕向けている国もあります。文化的なモノに触れ合う機会とタイミングをきちんとつくり、文化を通して感性や創造性などそういった価値観を育てるようにしているのです。ビジネスに置き換えると、全部を数字で判断してしまうのではなく、数字では表わせられない部分を経営者から若者までがちゃんと持っている。数字で表わせない価値の評価軸を経営者が持っていると、会社は大きく変わると思います。日本は数字の視点を強め過ぎたためいくら儲かるのか、それはビジネスになるのか、何年で…という会話になってしまいます。もう一度文化的価値観を取り戻したほうが良く、だからこそ最近はアート×ビジネスといったテーマが出てきているようにも思います。
印南:ヨーロッパでは家族で会話や議論をして過ごす時間をとても大切にしていると思います。例えば、「アルスエレクトロニカ」は、オーストリアのリンツという人口3万人以下の小さな町に9万人が訪れるという世界で最も有名なメディアアートフェスティバルですが、家族で来て、親子でアートや最先端の技術に触れ活発に議論している光景をよく見かけます。家庭での教育がそこにあり、それができる環境がある。なかなか日本ではそういう光景を目にしません。また、ここに来る親子は展示を見て議論して、納得しないとまた見に戻ってきたりするんです。日本のようにざーっと一周見て回って満足するのではなく、自分たちにとってその作品がどのようなものなのかというところまで議論する習慣があることに感動しました。
山田:最近1月の元旦と2日が休みの百貨店も増えていました。そうかと思ったらまた元旦もオープンと戻ってきています。元旦一日ぐらいどこにも行かなくていいじゃない、経済を動かさない日があってもいいのじゃないか!と思います(笑)。
印南:「せーの!」でみんなで休んだら、誰も迷惑しないと思いますよね(笑)。
山田:僕には好きな言葉がありまして、昔缶コーヒーのジョージアのCMで、「世界は誰かの仕事でできている。」という言葉です。まさに誰かの仕事で社会は成り立っていて、その動きを一回止めると、すべてのことを大切に思えると思うんです。誰かが働いてくれているから社会が動いている。その実感を得られれば、働くことの大切さを感じられて働き方やコミュニケーションも変わると思います。日本は働き方改革を掲げているのであれば、取り入れてほしいですね。
山田:今日は学生の参加が多いと聞いています。若い人の感覚から、企業の働き方について聞いてみたいと思います。仕事とプライベートの時間は分けたほうがいいと思いますか?
学生1:分けた方がいいと思います。仕事と関係のない意外なところで新しいアイデアやひらめきが起きると思うので、ずっと同じ人と一緒にいても良いアイデアは浮かばないのではないかな、と思います。
山田:会社によっては「ダイバーシティーも含めてコミュニケーションや一体感を大切に!」と言いながら社員寮を復活させるといった、同質性に突っ込んでいく様子も見られたり、まだまだ企業によって手探りですね(笑)。
学生2:私はできるだけ仕事とプライベートは一緒がいいと思っています。仕事が楽しくなかったらプライベートも楽しくない。境目がないようなものだと思っているからです。
また、今就職活動中で、働き方のスタイルや働く環境が説明会では表向きだけきれいに表現されている会社がたくさんあり、実際中に入ってみると昔のまま何も変わっていない企業がよくあるように感じます。説明会では「変革していこうとしています!」という言葉を聞きますが、実際見てみるとそう感じない。会社を選ぶとき、学生はそういうところを見ています。
山田:耳が痛いですね(笑)。最近の採用活動では、学生が平均残業時間など質問されることが増えていると聞きます。学生の方が従業員より働き方に対して関心を持っており危機感を覚えています。また、大学生の方が場所や時間の使い方がうまくなってきているように思えます。大学に行くと、どこで勉強や作業するか、仲間とコミュニケーションを取ったり、休んだりと、いろんな場所の中から主体的に選択しています。
そんな学生がいざ企業に入り、「机はそこで、ずっとそこで働いてね」と言われたら、学生からしたら「え?」という感じですよね。そういった環境で学んできた人が一つの場所に押し込められて、ルールに縛られて働く。どんどんモチベーションが下がって能力を活かしきれなくなってしまいます。
ここで海外を見てみると、アメリカは日本と違って若い労働人口が増加中で、いかに若い優秀な人材に自社に入ってもらい働いてもらうかを大変重要視しています。そのため若い人たちの価値観に合わせた環境や働き方を調べて用意し、これまでの自分たちのルールでさえも変えていく。優秀な次世代に働いてもらわないと自分たちのビジネスは中長期的に存在できなくなるので、そこに向き合い、ちゃんと寄り添っています。日本の企業はその視点が遅れていて、既存のルールや働き方を主張して、新しいことや変化に寄り添うことをしません。いかに若い世代にパフォーマンスを発揮してもらうかを対話しながら提供していくのが今後の日本企業の課題です。とは言え、好き嫌いやわがままを許容することではないのでバランスが難しい。
印南:日本の遅れは認識の違いもあって、過去の成功体験が持続することがビジネスが成り立ちサービスを提供し続けられる指針だと思っていて、そういう部分も確かにあるけれど、未来を見据えると切り替えないといけません。きっと、いろんな働き方に対応するのも若い世代は上手だと思います。
働き方改革も若い世代はいろんなアイデアややり方を出せると思っているので、問題は「働かせ方改革」だと思います。そういう意味では「もっとこういう風にやりたい!」というアイデアや「実はこうした方がいいんじゃないか」という意見はどんどん発信してほしいです。まず自分自身で働きやすい環境をつくることにトライしてみて、それを隣の人に発信する、さらに一つ上の上司に発信する…実はそういう情報を会社は欲しがっています。「こういうことやってみたらうまくいきましたよ!」という、これまでとは別の成功体験を教えてあげる気持ちで(笑)。上の人も単純に今までの組織やシステムから抜け出す方法がわからないんだと思います。
山田: 日本の働き方でも海外が真似をする良いところはあると思います。例えば、ツイッター社はオールハンズという全社員を集めたミーティングをしていますが、あれは元々楽天の全社朝礼を知り、やり始めたとも言われています。このように海外から逆輸入されて日本の文化が評価されている事例は他にもあります。欧米で流行している「マインドフルネス」や「禅」なども日本の文化がルーツです。日本で元々行われていたことを止めてしまい、それを海外が取り入れて普及し、また日本に戻ってくる流れは残念ですが、日本の古来からの慣習や文化はどんどん輸出できるんじゃないか、と視点を変えて見ることが大事だと思います。朝からみんなでそろってオフィスで体を動かすラジオ体操なども、健康面や一体感を生む目的では良い慣習かもしれません。
印南:ラジオ体操はとても日本的ですよね。全国民が同じ体操できるのはすごいことだと思います(笑)。 どんどんそういうことを輸出、発信していくことも大切ですね。もっと自信を持って、いいことは積極的に発信していければ、海外から見る日本の働き方も変わるかもしれません。
岡本:ありがとうございました。今日は、海外・日本・個人と、働き方に対する考えをマクロからミクロまでいろんな視点で見ることができたと思います。
日本は古来から、「道」と付くものには「型」があって、仕事自体がそのまま文化になったり、文化と生活していたと言えるぐらい文化が日常に浸透していました。元々そういう力が日本にはあることを思い出すのも大切ですね。
そして、これまではうまくいっていたことも、時代の変化、日本の人口構造の変化によりこれからは考え、変えていかないとうまくいかなくなることがたくさん出てくると思います。組織・個人単位でも同じことが言えるので、いろんな目線を持ちながら、働く理由をお金を稼ぐためだけではなく、もっと幅広く豊かなものにしていく必要があります。これをチャンスと捉えて、若い世代のみなさんには変化を楽しみながら頑張ってほしいと思います。
日本人は古来から海外からの文化をうまく取り入れることがとても得意でした。中国から伝わった漢字から、新たにひらがな・カタカナという日本流にアレンジした文字を生み出しました。そういうことができたのは、日本の「翻訳能力」が非常に高かったからだと思います。ところが今は、入ってくる情報の量に対し、この日本人の翻訳能力がうまく機能せず、翻訳できずに「暗号」のまま取り入れてしまっている場面が多くあります。日本人の持つ文脈を読み解く力の大切さに改めて気づき、きちんと翻訳しながら海外の文化を日本流に変化させて取り入れることができれば、また「新しい日本らしさ」を手に入れて、飛躍できるのではないか!と、とても希望の湧くセッションでした。
beeではこれからも「気づき」あふれるイベントを開催していきます!
REPORT
2021年2月22日に開催した、「晋也と一也のIX道場 vol.02」のイベントレポートをmatsu-lab(関西大学社会学部・松下ゼミ)のメンバーが作成してくれました。
独自の視点でトークショーの内容がより深掘りされた内容になっており、イベント参加不参加に関わらずおもしろい内容となっております。ぜひお読みください!
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REPORT
2021年1月27日に開催した、「晋也と一也のIX道場 vol.01」のイベントレポートをmatsu-lab(関西大学社会学部・松下ゼミ)のメンバーが作成してくれました。
2人のメンバーによる、それぞれ違った視点でのレポートをお読み頂けます。トークショーの内容がより深掘りされた内容になっており、イベント参加不参加に関わらずおもしろい内容となっております。ぜひお読みください!
詳細を読む
REPORT
2020年10月19日~2020年12月21日 全9回開催した、「秋だ!学びだ!多様な生き方・働き方を学ぼう 大阪大学『現代キャリアデザイン論II』」のイベントレポートをmatsu-lab(関西大学社会学部・松下ゼミ)のメンバーが作成してくれました。それぞれ違った視点からのレポートは、イベント参加不参加に関わらずおもしろい内容となっております。ぜひお読みください!
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「これからのはたらく」を知りたい方、考えたい方、つくりたい方、相談したい方、見学したい方、仲間が欲しい方・・・
もし少しでも「ピン」ときたら、お気軽にbeeにおたずねください。