REPORT

地域とつながり、地域と活きる~開催レポート~

大阪大学COデザインセンター主催

大阪大学COデザインセンター主催の本イベント。地域とつながり、セクターを越えて社会課題にアプローチしているゲストをお招きし、地域共創のあり方について学ぶ機会となりました。

地域共創のこれから

地域の様々な分野で共創活動を展開するゲストのみなさんによるパネルディスカッション

特定の社会課題に対し、ひとつの組織で解決を試みるのではなく、企業、行政、NPO、基金、大学、市民などの立場の異なる組織が、組織の壁を越えてお互いの強みを出し合い、同時に社会課題の解決を目指すアプローチ(コレクティブインパクト)の創出のあり方について、参加者の皆様と共に考える時間となりました。

大阪大学COデザインセンターについて

大阪大学COデザインセンター 松繁 寿和センター長

まずはじめに、大阪大学COデザインセンター松繁センター長より、COデザインセンターについてご説明いただきました。
「COデザインセンターとは、教育に関してみなさんと一緒に考えていくセンターという意味です。”地域に生き世界に伸びる”というのが大阪大学のモットー。グローバルな教育はいつの時代も重要ですが、その一方で学生にとって”身近な問題”を感じさせないと本当に勉強しようというインセンティブが湧いてこないと思います。そこで、地域の問題を大学教育にどう組み込んでいくかが大学にとって重要です。
大阪大学COデザインセンターは、

・STiPS(公共圏における科学技術政策)
・ソーシャルデザイン
・社会の臨床

といった3つの”社会課題”から考える教育プログラムを用意しています。
(詳細はこちら) 
COデザインセンターでは、従来の机に座ったままの勉強方法だけでなく、これからの時代に対応できる能力を持った人材を育てるために、外に出て行って実際の社会問題を考える活動もしています。
それぞれ色合いは違えど、社会と大学の間を教育を通じてシームレスにくっつけていくことが使命だと感じています。」

知と社会の統合

大阪大学COデザインセンター 山崎 吾郎准教授

続いて、大阪大学COデザインセンター 准教授・山崎 吾郎さんより、大阪大学大学院プログラムにおける
地域共創の取り組みについてお話いただきました。

山崎:現代の社会は科学的な知識を基盤とした複合的な社会だと言われます。そうした社会で生じる課題に取り組むには、高度な知識が求められる上に、ひとつの専門分野だけでは課題に対応できないということが問題となります。気候変動、原発事故、災害復興といった問題に典型的にみられるように、生じている課題に専門家が一人で立ち向かうという時代ではありません。そこで、そうした現実を前にしてどんな教育ができるか、また大学や学問が社会にどう関わっていけるのか、つまり、知と社会との“共創”をどうデザインできるかを考え始めているということになります。
5年前から始めているプロジェクトを紹介してみたいと思います。実際に課題を抱えている組織や人に協力していただき、文系・理系といった従来の学問間の垣根を超えて、志のある学生が結集してチームで課題に取り組むというプロジェクトです。
教育の体制としては、関係する教員が4名、参加する学生は年度によりますが、15~20名、扱う課題は毎年2件から多くても4件程度です。この5年間で、合計15件の課題を扱いましたが、そのうち地域の課題が8件、企業の課題が6件、研究所の課題が1件でした。
地域の課題に限っていうと、例えば、2015年度に京都市の北部にある京北地域で空き家の活用に関するプロジェクトを行っています。2016年度は、高島市(滋賀県)で、廃校となった小学校を住民主体で活用するための仕組みを考えるプロジェクトを行いました。学生は、キャンパスの外に出て地元の方々にインタビューをしたり、行政やNPOといった関係するステークホルダーの方々と議論を重ねたり、日本各地で行われている先行事例の検討をしたりしながら、問題の所在をつきとめ、コンセプトを練り上げ、そして課題の解決に資するような提案を考えていきます。
こうしたプロジェクトを通じて学生は、理屈だけでは動かないリアルな社会関係に触れ、それぞれの専門分野で培ってきた知識や経験やスキルを、現実社会のなかでどう応用できるのか問われることになります。学生に対するアンケートの結果をみてみると、プロジェクトを実施する前と後で、大きく分けると

・協調力・チームワーク
・俯瞰的な視野
・課題を発見・定義・解決する力

という三つの力が強く意識されていることがわかります。
一方、課題を提供していただいた方々からも、学生の活動やその成果物について、これまでのところ一定の評価をいただけているように思います。プロジェクトの成果物は、①現状の調査分析、②課題の(再)定義、③課題解決に向けた複数の提案、④提案のインパクト、といった要素を報告書にまとめて、協力いただいた方々にお渡ししています。報告書をお渡ししてプロジェクトは一旦終了となりますが、終了後も、自分なりに現場と関わりを持ち続けるという学生も出てきています。
2018年度は、このプロジェクトを更に推し進めるかたちで、「大学×地域×企業」の三つ巴での共創プロジェクトを行うという、新しい挑戦をはじめる予定です。これは学生にとってももちろん刺激的な学びの機会になるだろうと思いますが、それに加えて、研究者や教員にとっても新しい研究テーマの発見につながる意義があるのではないかと考えています。大学も行政も企業も、それぞれが社会を構成する重要な要素ですが、さまざまな知が集積する大学でこそ可能になるようなプロジェクトのあり方を模索したいと思っています。
これをどう持続的に運営していくかが課題ですが、教育・研究・開発・実践を横断してひとつのプロジェクトとして推し進めることで、新しい取り組みや仕組みが作り出せるのではないかと感じています。

流山市での地域共創

Trist代表 尾崎 えり子さん

続いてTrist代表 尾崎 えり子さんに千葉県流山市で取り組まれている地域共創についてお話いただきました。

尾崎:元々私は都内の大手企業で働くバリバリのキャリアウーマンでしたが、子供を産んでから大きな転換がありました。妊娠して流山市に引越し、子供を保育園に預けてから都内の会社に行こうと思うと通勤に1時間~1時間半はかかります。保育園からの呼び出しも多い中、流山市に縁もゆかりもないのでほぼ一人での子育て……会社にも保育園にも子供にも謝りながら、”子育てをしながら通勤は無理だ”と痛感しました。それで、東京の会社を辞めました。

退職後地域で働くことにしましたが、流山市はベットタウンで企業があまりなく、ファーストフード店やコンビニに面接を受けたのですが、これまでのバリバリのキャリアの実績の履歴書を自信満々に出すものの、”求めている人材ではない”と言われる経験をします。他の働くお母さんに相談すると、今までのキャリアを消しゴムで消して、大学時代のバイト経験だけを履歴書に書いて初めて受かる。バリバリのキャリアは引かれる、とアドバイスを受け驚愕します。こんなにも人材・労働力不足がうたわれている日本において、これまでの自分のキャリアが邪魔になるのはおかしい!変えなければ!と、起業を決意します。

そこで、Tristを立ち上げ、シェアサテライトオフィスをつくり、都内に行かずともキャリアを活かして地域の中で働ける場所をつくりました。一番の問題の根源である往復3時間の通勤時間が減ると時短を使わなくてよくなり、給料が下がらなくなり、やりがいのある仕事を続けられる、という好循環が生まれます。通勤時間さえなくなれば解決する要素が多いので、自分たちが通勤するのではなく、仕事がこちらにくればいい!と、企業を流山市に呼ぶことにしました。

サテライトオフィスは人と企業がなかなか来ないという問題を抱えているところが多いですが、Tristでは地域の方をテレワーカーとして育てることに注力し、その問題を解決しました。優秀な人材が流山に来ればいる、ということを企業にアピールしました。都内の企業にはキャリアアッププログラムを見学してもらい、人を育てている現場を見て、直接採用してもらいます。
テレワークという最新の働き方で働いてもらうため、ツールも教育プログラムもマイクロソフトと組んで最先端ものを導入しました。企業側のメリットとしては、人材獲得にかかるコストがTrist利用で大幅に下がります。できることなら下がった分をお母さんたちの収入に上乗せしてもらうようお伝えしています。

都内の企業をターゲットとした「Trist Station」を2016年5月よりスタートしましたが、都内への通勤が難しいお母さんだけではなく、お父さんや介護中の方も入居し、すぐにいっぱいになりました。そこで、二拠点目をつくることにしたのですが、そもそも都内に仕事が一極集中していることが問題なので、海外に仕事をとりにいこう!ということで「Trist Airport(通称:流山国際空港)」も2018年4月よりスタートする予定です。

地域の取り組み

地域のために計画性を持って進めていったわけではなく、とりあえずおもしろい!と思ったことに旗を立ててめっちゃ楽しみながらやっていると、自然と地域の人が手伝ってくれるようになっていきました。

①学童をプロデュース
学童をつくり、その中で子供たちに会社を作ってもらって、利益とは何か、幸せはどう増えていくのか、ということを学んでもらいました。子供たちも地域の中で何ができるかを自分たちで考えるようになり、商売で生まれた利益をより地域に還元した方がさらに多く還ってくる、ということを体感してもらいました。

②地域のお父さんネットワークをつくる
地域のお父さんのネットワークをつくるために流山市運動会を始めました。運動会を通じてお父さん同士が知り合い仲良くなり、友達ができる感覚を持ってもらいました。お母さんが働くためにはどうしてもお父さんのサポートが必要ですが、運動会を始めてから地域のお父さん同士のネットワークができ、子ども達を預けやすくなりました。

③シニアの方と子供たちの絆つくり
シニアの方と子供たちの絆をつくるために、子供たちが作った特産品をシニアの方が評価する、といった交流の企画をつくり、シニアの方に子供たちの顔と名前を憶えてもらうことでそれがまた地域の安全につながる、といった活動もしました。 

今後の活動としては、子供たちにもっと社会と地域を知ってもらいたい、一番最新の働き方を見てもらいたいという思いがあります。Tristでは子供たちが先生となり、大人が授業聞く、という企画も始めています。
世界とつながり、世界の中で価値を出していく人材を流山から輩出していくことを目標にしています。  

はじめよう、お金の地産地消

コミュニティ・ユース・バンクmomo 副代表理事 公益財団法人あいちコミュニティ財団 長谷川 友紀さん

最後に、コミュニティ・ユース・バンクmomo 副代表理事 公益財団法人あいちコミュニティ財団 長谷川 友紀さんにお話頂きました。

長谷川:私はNPOバンクとコミュニティ財団という二つの団体に所属し、地域のハブとなるような活動をしています。
二つの機能を使って、地域のNPOやソーシャルビジネスに融資と伴走支援・助成と伴走支援といったサポートを、お金と人材を活用して行っています。
いま金融機関の預貸率(金融機関の預金残高に対する貸出残高の比率)が右肩下がりで下がっていて、信用金庫は5割を切っています。信用金庫の融資先は地域の企業なので、みなさんが預けているお金が地域で活かされていない問題が浮き彫りになっています。
廃業率が開業率を上回る中、NPOは右肩あがりで数が増えており、成長している産業です。今や5万を超える数のNPOが日本にあり、これはコンビニと同じ数なのです。そこで、NPOバンクはそんなNPOをサポートする活動をしていますが、二つの融資可能な応援モデルがあります。一つは、事業収入が得られるもの。NPOは稼いじゃいけないイメージがあると思いますが、稼ぐことを目的としていなければ稼いでOKなのです。例えば、岐阜県郡上市の古民家を改修し、宿泊型の施設をつくったNPOに融資しました。今はちゃんと事業収入でビジネスが成り立っています。

もう一つは受託収入が得られる融資先への融資。例えば、自分一人ではトイレにもいけない重度の障害の子供を預かるデイサービスに融資しました。数年前までそういったサービスは名古屋にまったくなく、お母さんがずっと子供に向き合うのは大変だということで立ち上げられた団体です。この場合も、受託収入がしっかりと得られるため、融資をした後きちんと返済してもらっています。

このように、NPOバンクでは事業収入と受託収入が得られる団体を支援しています。
私たちだけでは年間で応援できる事業者が限られているため、もっと他と連携する必要があり、地域の金融機関との連携を進めています。先ほどの預貸率の話であったとおり、地元の信用金庫がもっとNPOに目を向けてくれたら本当は自分たちは必要がないはずなので、地域の金融機関と数年前から連携に力を入れています。
例えば、2014年には全国初、日本政策金融金庫とNPOバンクによる協調融資でソーシャルビジネスの支援を実施しました。このような、地域の金融機関・自治体・中間支援組織が一緒になってソーシャルビジネスをサポートするネットワーク組織の立ち上げが愛知を起点に全国に広がってきています。

続いて、コミュニティ財団についてご説明いたします。コミュニティ財団はNPOやソーシャルビジネスに対し助成と伴走支援を行っています。愛知県の特徴として、人口減がうたわれる日本において、人口は少しだけ増えています。そしてその先を見据えると高齢者が一気に増えると予想されています。医療も介護も厳しくなるのが愛知と東京の一部と言われていて、今後介護離職の問題が切っても切り離せないところまできています。
NPOの数は全国的には増えていますが、実は愛知県は人口割したときのNPO数がワースト1なのです。その背景として、地元の企業が元気なため自治体もお金がありサービスが整っているということもあるかもしれませんが、これから先ももつのかが問題です。
コミュニティ財団は今後人口減で補助金や助成金が減っていく中、行政サービスでできないことをサポートしていきます。補助金・助成金に頼りきってしまうのではなく、自分たちで会費や寄付を集められる団体を増やしていくことが大事です。
あいちコミュニティ財団ではホップステップジャンプの3段階のプログラム用意し、NPOのみなさんが一歩ずつ成長し、自立していくフォローをし、自分たちでお金を集められる団体を増やしていきたいと考えています。
NPOのみなさんは支援を自分たちだけでやらなければ、と考えがちですが、NPOにできることには限界があります。問題を抱える当事者を支えるために、地域でどんな人たちと手を取り合って課題解決に挑まないといけないかを相関図で示したり、NPOの方たちはどうしても自分たちが持っている資源から事業を組み立てていきがちですが、待ったなしの地域社会の課題を解決するために、いつまでにどういう状態になっていないといけないか、という長期成果から逆算して今何をしないといけないかを描く「ロジックモデル」をつくるサポートを行ったりしています。

自治体や企業も助成金・補助金制度を持っているので、私たちだけでなく他の助成金・補助金プログラムも活用し、団体に対して成果を求める”成果志向”の補助金・助成金が増えればさらに伴走支援が可能になります。そういった使われ方をする補助金・助成金制度がもっと増えていくように、『“成果志向”の補助・助成金推進会議 in あいち』では、制度自体を変えていくための勉強会等も開催しています。

感想や気づきの共有

モデレーターのオカムラ 庵原 悠

ここからはパネルディスカッションタイム!モデレーターをオカムラの庵原が務めます。
パネルディスカッションに入る前に、まず参加者のみなさん同士でこれまでのお話の中でどういったところが気になったかなど感想を共有し合っていただきました。様々な意見交換が活発に行われました。

パネルディスカッション!

まずはじめに、参加者のみなさんで共有してもらった意見・感想について発表していただきました。

「大学の取り組みを維持するためには社会的評価が必要ですが、その指標はひと言で言うと儲かっているかどうか。しかしながら日本は大学の取り組みに対して投資が向かっていない。一方で発展途上国ではマイクロファイナンスが成功している。日本の地域では経済が疲弊化しているのに、マイクロファイナンスが起きないのはどうしてか、という疑問符が浮かびました。」

「地域の課題に対して学生が解決策を考え、そこに住民や企業が加わるという形はこれまでになかったと思います。学生が社会のリソースとして役立っているとは、時代が変わってきたのを感じます。」

それでは、ここからパネルディスカッションのレポートに移ります。

繋がる地域、企業、大学、自治体

庵原:まず山崎先生に質問なのですが、来年度から「地域×企業×大学」での取り組みを始めたいとおっしゃっていましたが、これまでの「地域×大学」の中に企業を取り入れることになった経緯について教えていただけませんか。

山崎:これには偶然の要素も少なからずあると思います。ただ、そうした偶然が生じる上では、これまで5年間取り組みを続けるなかで、企業、行政、NPO、地域といったさまざまな人たちとの関わりが蓄積されてきたということが、重要な前提になっていると思います。それと、毎年同じテーマを扱っているわけではないので、こちらで対応可能なテーマの幅も年々広がってきています。
今回は、たまたま企業から提案いただいたアイデアを、これまで取り組んできた地域の課題と掛け算することで、新しい価値が生まれるのではないかと考えたわけです。これは、企業だけではできないことですし、また地域だけでもできないことだと思うので、大学という場のもつ特性や強みが発揮されるプロジェクトになるのではないかと、期待しています。

庵原:なるほど。このプロジェクトの活動資金はどういったところから出ていますか?

山崎:このプロジェクトは、博士課程教育リーディングプログラムという日本学術振興会の事業の一環としてはじめたものです。ですので、基本的には補助金です。つまり、期限付きなんですね。補助期間の終了後にどうしていくかは、私たちにとっての課題です。企業や自治体とどういう関係を作っていくか、また社会に対してどう活動の意義を示していくかが重要になってくると思います。

庵原:ありがとうございました。続いて、尾崎さんに質問です。尾崎さんが取り組んでいらっしゃることが非常にユニークだと思います。地域共創を事業ベースで成り立たせている。そして課題はマイクロな身近なところからスタートして、それをどんどん発展させていく。そのように地域と関わる中で、自治体とはどのように絡んでいますか?

尾崎:自治体からは、地元で創業したい女性の創業支援事業を委託されています。また、Tristは商工課の補助金を活用し、マーケティング課が広報で応援してくれています。

庵原:その取り組みは、尾崎さんから仕組まれたものですか?

尾崎:実は、流山市は人口18万人の町ですが、転入超過数が全国で8位なんですね。それだけ共働きが増えている町なんです。そのため市場が拡大している街だったので、創業しました。
子育て世代の女性で創業している方が少なかったことと、地域で色んな方を巻き込んで面白いことをしよう!と人を活かそうとする私の取り組みに目を付けてくれました。

庵原:尾崎さん自体がワンアンドオンリーの存在になったからこそいろんな人との関係ができたのですね。具体的に、地域とどのような共創活動をしていらっしゃいますか?

尾崎:あまり地域共創を意識してやっているわけではないですが、例えば1人目を産んだ時に、自分は3人産みたいのにこの町では三人産むイメージが湧かない。そこで、流山市の議員に連絡をとって意見交換をしました。そんな中で、これだけ子育てママが問題意識を持っているのに子育てママの議員がいない、だったら子育てママを議員にしよう!と動き出しました。
自治体に依存せず、自分からこの町を変えていけると信じて、自分でできることはなんでも自分でやっていく気持ちでいました。

庵原:ありがとうございます。続いて長谷川さんに質問です。NPOバンクとコミュニティ財団の話は、全国でもあまり聞いたことのないユニークな取り組みだと思います。財団の財源はどこからか、また景気などによって左右されるものなのか、お聞かせください。

長谷川:NPOバンク、コミュニティ財団は個人の方からの寄付や企業からの基金によって成り立っています。企業や自治体も、補助金・助成金の制度を知ってはいるものの毎回機械的に同じところに出していて、結局どういった成果を出しているかがわからなかったり、何に使われてるかがわからないと悩んでいるところがあります。そういった企業・自治体からうちと一緒に伴走支援型の補助金・助成金をやりたい、とおっしゃっていただくことも増えています。お金は補助金・助成金から、伴走支援はこっちでやるといった委託支援を始めたり、財源をミックスしながら支援している状況です。

庵原:もともとある枠組みの中で新しいイノベーションを生み出すとは、本当にそれ自体がユニークな取り組みです。既存の助成事業のあり方がマッチしなくなっているからこそ価値があり、連携を生むことでさらに意味を出していると感じました。
お三方の話を聞いて、地域や社会の課題解決に臨むにあたり、アプローチの仕方が全然違いますね。山崎さんであれば、学生の学びの場としてもうまく成り立たせ、尚且つそれを地域に還元するという学生を活かしたリソースの活用をしている。尾崎さんであればご自身の課題がそのまま地域での課題であり、地域でおかしいと感じる部分をご自身がプレイヤーになって解決に向かっている。長谷川さんは、そのプレイヤーがより活動しやすいように支援体制をうまく仕組化している。
他の二人の話を聞いて、このようにアプローチの違いがある中で参考になったことはなんでしょうか。

“四すくみ”の強みを活かし、弱みを補い、新たな共創を!

山崎:大学に欠けているのは、どうやってお金を生み出すかという部分ですよね。もちろん、大学が企業のようになることが求められているわけではないはずです。研究者にしかできないことがあるというのは明らかですし、今すぐ役に立たなくても考えておかなければいけない問題というのもあります。それは、少なからず共通了解としてあるのではないでしょうか。
一方で、ニュースなどでも取り上げられているとおり、日本の財政状況とか人口構成を考えれば、大学のあり方そのものが問い直しの段階にきているというのは確かです。経済活動というのは社会活動の一部ですから、それを無視して組織が成り立つはずがないのですが、現在の大学にとってどういう仕組みがよいかは、はっきりしていないと思います。地域社会を維持するために必要な経済というときにも似た問題が隠れているのですが、研究や教育のためのお金の流れや仕組みということをもっと考える必要があると思います。

尾崎:長谷川さんに聞きたいのですが、伴走者は、距離感がすごく重要だと感じています。地域の中でも入りすぎると期待されすぎてしまい、それが結果依存させてしまうことになり、自立することを妨げてしまうこともなりかねない。思いを持って走っている人たちとどういう距離感で支援しているのかお聞かせください。

長谷川:私たちの事務局スタッフはそもそも人数が少なく、人材不足なのでいろんな団体に寄り添えない課題があるので、ボランティアスタッフと一緒に事業者を応援する伴走支援を行っています。
そのボランティアスタッフとしてはビジネスをわかっている人たちに関わってもらいたいと考えているので、30~40代が対象になるのですが、ボランティアの期間を区切るようにしています。30代~40代の忙しい人たちがボランティアに関わりたくても関われないのが、「いつまで関わらないといけないのかがわからない怖さ」があるからだと思います。
そこでうちは3か月~半年で期間を区切るようにしています。そして事業者に対しては、うちはあれもこれもサポートする団体ではなく、みなさんが主体となって活動していくことを強く伝えます。あとはボランティアで参加された方がその事業者にその後もなるべく関わることを促しています。そのような形で事業者も応援者も増やしていき、自分たちで活動していけるように支援をしています。
また、私の感想ですが、地域共創を大学が旗を振ってやるのはとても大きいと思います。もう一つ、行政は大学の先生に弱い、大学はNPOに弱い、NPOは企業に弱い、企業は行政に弱い……といった組織の四すくみの法則というのがありますが、行政を動かしたかったらあの大学の先生に話をしてもらえばいい、などお互いを活かしあうことができるじゃないかと思います。
尾崎さんは思いがすごく強いのが素晴らしいと思いました。NPO事業者は、誰も気づかないような小さな課題を見つけるのが上手ですが、それをビジネスにしていくのが弱い。でもそれは実は違う機能だと私は思っていて、事業者を孤立させないで違う機能を持った周りがいかにサポートしていく体制をつくれるかが大事だと感じています。

庵原:四すくみの話が出たので、僕自身も企業に属する身としていろいろ考えないといけないと感じましたが、大企業の関わり方や、これから大企業に求めることは何かありますか?

山崎:これは大学の側にも言えることなのですが、社会が複雑化しているのだとしたら、視野を広く持つことがとても大事です。企業だって社会的な存在ですし、大企業ともなれば社会に与えるインパクトも大きいわけですから、その企業が社会の一構成員として何をしようとしているのかが、どうしたって問われると思います。その問いかけというのは、経済的な価値の話にとどまらないはずなので、どういう社会を望んでいるのかというところから一緒に議論をしたいですよね。
企業には企業の論理があるというのはよくわかりますが、共同でプロジェクトをするのであればなおさら、何に向かって協働しているのかという話にもなります。企業とプロジェクトをしていると、「これってお金になるの?」とすぐに言われてしまうことがあるのですが、そこで話が終始してしまうなら、わざわざ大学でプロジェクトをする意味もないんですよね。目先の利益とは別のところに新しい価値が隠れているということもあるわけで、そういう意味で、長い目で見るとか、広い視野で物事を考えるということは、本当は企業にとっても必要なのではないかと思います。

庵原:尾崎さんはいかがでしょうか。尾崎さんは大企業に勤め、そして今は大企業と付き合っているという二つの観点から考えることができると思います。

尾崎:大企業の人は仕事以外のことをもっとした方がいい、と感じています。地域の中に入って生活者となり、リアルな感覚を育てた方がいい。
例えば、自治会に所属している中で回覧板を家から家へ回すんです。こんなこと必要ないんじゃないか。もっと効率的にできるんじゃないか、と思うことはたくさんあったのですが、10秒でできることを1時間かけてみんなでやる、一人でできることを10人でやる、わざわざみんなで集まってやる。そういった一見無駄に思えることが、実はそれが孤独死をなくすセーフティネットになっていると気づいた瞬間があったんです。
こんな風に、本当のところは入ってみないとわからないことがとても多いんです。大企業では当事者(生活者)の本音を引き出せていないまま商品開発が行われるから、誰にも使われないサービスや商品が生まれてしまいます。なので、生活者になる時間をもっともっと作った方がいいと思います。

庵原:一人一人のワーカーが地域に入り込んで実態を感じることが大切で、そうすることで大企業と地域が繋がるということですね。長谷川さんはどうですか?

長谷川:私はダブルワークや副業はどちらも稼ぐことを前提にしなくていいと考えています。ボランティアで日々のビジネススキルを活かして社会や地域の課題の調査をすることもできます。
例えば、寄付を集めることはマーケティングや、ビジネススキルがないとなかなかできないことです。そういったことに企業の人に関わってもらうことが大切だと感じています。大企業は人材が豊富ですし、外に目を向けると勉強になることがとても多いことをもっとわかってもらいたい。実際に補助金・助成金の伴走支援を一緒に実施している企業はプロボノのプログラムの一環として行っています。会社の社員が事業者の支援に関わることをなぜやっているのか尋ねると、人材育成のためとのことでした。そこに参加した社員はもともと地域社会の課題を知らなかったけれども、参加することでいろんな気づきや学びがあった、との感想もいただいています。会社がそういったプログラムを新しい人材育成の形として取り入れることもできます。

庵原:ブロボノはボランティアともまたちがう、専門性を活かした新しい支援の仕方ですよね。山崎さんはどうですか?

山崎:いろんなステークホルダーがバランスよく関わっていかないと、課題の解決には向かわないのだと思っています。大学の立場からいうと、たとえば日本では博士号を持った人が社会で活躍するということがまだまだ少ない。これは、先進国と呼ばれる諸外国の状況と比較すると、明らかな違いです。高度な知識基盤社会の到来だといいながら、専門知識を持った人間を育てることも、そうした人に活躍の機会を与えることも、社会が望んでいないのではないかとさえ思えます。
もちろん大学の側にも責任はあるのですが、企業がどんな人を求めているのかという話でもあります。私の専門である文化人類学を例にすると、文化人類学の博士号をもった人を採用する企業なんて、日本では聞いたことがないです。でも、欧米では当然のようにそういう人が企業で働いているという状況もあって、専門的な知識やスキルの価値が認められているんですね。何でも同じようにやればいいというわけではもちろんないですが、このギャップは何なのかということは、真剣に考える必要があると思います。
今日お話した大学院プログラムにしても、大学院で専門の研究をしながら、自分の専門以外の視野を広くもちたいといった学生や、チームのなかで自分のスキルを活かしたいという意識をもった学生が多くいます。そういった、教育の変化や若い人たちの関心の変化というのは、大学と関わりを持つことで、もっとリアルに感じてもらえるのではないかと思います。

庵原:企業の中でもデザイン思考を取り入れるところが出てきていますよね。デザイン思考の元をたどると文化人類学に行き着くのですが、文化人類学の研究手法がビジネスに活かせる、その能力のある学生にデザインチームに入ってもらう、といったことが欧米では当たり前です。
多様な人材を組織に入れていく。あるいは今いる人材に視点を変えてもらうといったことの重要性を感じました。自分自身がユーザーになる観点を逃していることは企業として大きな課題だと自戒も込めて再認識しました。

会場からのQ&A

外国人流入者に対して、地域で取り組まれていることはありますか?

長谷川:愛知県は実は外国人がとても多い県です。多文化共生の問題に取り組む団体が年々増えており、深刻な問題として捉えています。日本で働く外国人に対して、企業によっては日本語を教えることなどが難しいところもあり、ミスコミュニケーションで大変な思いをされている方が多いのが実情です。今の外国人の方は生まれたときから日本にいる方が大半で、日本語を使って働くことを前提に勉強しないといけません。日本人・外国人のくくりではなく、教育問題として扱う必要があると感じています。

尾崎:私の知り合いのシニアの方が外国人労働者の子供の日本語教育をしています。外国人の方は子だくさんの文化でたくさん子供をつくる方が多いようで、上の子が下の子の面倒を見る保育機能を担ってしまっています。そのため、上の子たちは小学校に通う頻度が減り、勉強から遅れてしまいます。そういう子供たちを社会と接続させ、繋がりを作りってあげたいと考えています。

日本の高等教育が役に立ったと感じていますか?

長谷川:私は大学のときに勉強の楽しさを知りました。裁判を見に行く授業があったり、大学の外に飛び出して学ぶという経験が高校までの勉強と全然違って自由で新鮮でした。大学時代に他の大学とボランティア活動に取り組んだ経験が本当に今に生きています。学校の中で学ぶことだけでなく、外との繋がりの大切さを知りました。

尾崎:もう少し「全体最適」よりも先に「自分自身」を考える機会が欲しかったです。私は香川県で育ったのですが、昔から世界で活躍する自分の姿しか見えていないような子でした。「自分はこうなりたい!」という気持ちが強すぎると下心や野心があると嫌われました。先生が想像できない道を行こうとすると止められました。「みんなと同じように」「チームのために」が優先されるということを学生の頃からよく感じていました。
自分が欲しいと思っているものを手に入れるために努力するのは当たり前のことなのに、自分の幸せを軸に動くことが軽視されている気がします。自分の幸せが分かっていないと誰も幸せにできない。自分自身をよく知っていれば、今まで以上に力を発揮できる。社会の一員としてより先に、自分について考えて向き合う時間が学校教育には必要だと考えています。

庵原:みなさんのお話を伺う中で、セクターの違う方々と対話を重ねることの大切さを感じました。今日はありがとうございました! 

共創のこれから

それぞれの分野でさらなる広がりを模索しながら地域で共創活動を展開されているみなさんのお話は大変勉強になりました。企業に勤めていると、会社・家の往復で視野が狭くなってしまいがちですが、もっと地域の中に入る時間を作り、自分に何ができるかを考える機会ができれば、それが結果としてまた会社の役に立ち、社会がよりよく回っていく、というイメージを持つことができました。

今後もbeeでは様々な共創活動を行っていきます!多様なみなさんと共に学び考える機会をつくっていきたいと思いますので、beeでこんなことがしたい!というお話があればぜひご相談ください。

REPORT イベントレポート

CONTACT

「これからのはたらく」を知りたい方、考えたい方、つくりたい方、相談したい方、見学したい方、仲間が欲しい方・・・
もし少しでも「ピン」ときたら、お気軽にbeeにおたずねください。